「聖樹について、詳しく伺っても構いませんか? 帝国にはない制度なので、興味深くて」
「はい。何なりとお尋ね下さい」 『聖樹』と呼ばれようと、結局はオメガなのだ。外交の場では、冷やかしや軽蔑を含んだ態度で『聖樹』について質問されることがよくあった。 だけど、ルシアンの表情から読み取れるのは、純粋な好奇心だけだ。 外国の文化を知りたいと、興味を持って聞いてくれている。 (ルシアン様は、帝国の貴族なのに) 帝国はオメガ蔑視が強いのに、エマを普通の人間として扱ってくれる。 そのことが、とても嬉しかった。 「聖樹は、みな神殿に入ると聞きましたが、エマはどこに住んでいるのですか?」 「あ、私はいま西殿(さいでん)で暮らしています。その前は、神殿にいました」 「神殿は、ここから遠いのですか?」 「はい。馬車で五日ほどかかります。聖なる山の中腹に建つ大神殿で、険しい山道もあるので、簡単に行き来はできないのですが」 エマはかつて過ごした、イーリス大神殿のことを思い出す。 平民のエマは、神殿に引き取られた後、新しい名前を与えられた。 エマヌエーレ・イーリス。これは、神殿長が付けて下さった名だ。 「私は十四の年に、大神殿でのお勤めを終えて、西殿へ移りました。なので、王宮で過ごすようになって、まだ二年ほどです」 「そうですか。王宮の暮らしには、慣れましたか?」 「はい……」 エマは頷いたが、正直なところ、慣れたとは言えない。 神殿では、他の『聖樹』から冷たくされたけど、それ以外の神官たち はみな優しかった。けど、西殿の住まいは、出身階級で明らかに差別されているし、王宮で会う貴族は、エマに好意的でない人も多い。 そんなことを思い出して俯くエマに、ルシアンが話題を変えるようにいった。 「エマの住む西殿も、ぜひ伺ってみたいですね」 「あ、西殿に殿方は入れないのですっ」 エマは首を振り、ルシアンに説明した。 「西殿には『聖樹』が暮らしている